
「工務店で注文住宅を建てると坪単価いくらくらいなのかな?」
一生に二度とないかもしれない大きな買い物だけに予算の組立てがとても大切ですね。
概算の工事費を把握して住宅ローンの相談をするのに「坪単価」で大まかな費用を算出しようと思っている方も多いと思います。
しかしこの「坪単価」という数字、じつは元となる算出根拠がばらばらだったりして、広告を鵜呑みにしていたら予算オーバーしてしまった!といったトラブルにもなりかねません。
この記事では工務店で建てる一戸建て住宅の坪単価の相場のご紹介、大手ハウスメーカーで建てるときとの比較、そして坪単価を比較するときの注意点などをまじえてお伝えします。
ぜひ坪単価を理解して一戸建て住宅建設の予算組み立てに役立ててください。
目次
■第1章 工務店で建てる一戸建ての坪単価は50万円/坪から
地域の工務店だけに限った統計資料というのが存在しないのですが、一般的な目安として「坪単価50万円/坪~」が相場となっています。(筆者調べ)
坪 単 価 | 備 考 | |
H社 | 50.7万円/坪 | 法床面積にて算出 |
W社 | 50.8万円/坪 | 法床面積にて算出 |
また工務店に限らず、日本全国、すべての新築住宅持ち家一戸建ての坪単価を示す統計資料、「国土交通省建築着工統計調査」の住宅着工統計(2017年)によると1平米あたり工事費予定額は全国平均で19万円/平米、坪に換算すると62.8万円/坪です。(1坪≒3.3平米として)
もう一つ統計資料をご紹介すると、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の「2017年度フラット35利用者調査」では建設費は全国平均で87.3万円/坪です。
数字にかなりバラつきがありますが、大まかな相場観はつかんでいただけたでしょうか?
■第2章 大手ハウスメーカーは75万円から90万円代後半
ではTVコマーシャルなどでおなじみのいわゆる「大手ハウスメーカー」で建てる一戸建て注文住宅の坪単価はいくらくらいなのでしょう。
住宅産業新聞社による大手住宅メーカーランキング(2017年)から引用した各ハウスメーカーの1棟当たりの建設費、坪単価をまとめたものが下表です。
1棟単価(万円) | 坪単価(万円/坪) | |
住友林業 | 3,820 | 97.9 |
三井ホーム | 4,020 | 97.2 |
旭化成ホームズ | 3,296 | 94.9 |
積水ハウス | 3,807 | 91.3 |
大和ハウス工業 | 3,590 | 88.5 |
パナホーム | 3,781 | 86.9 |
積水化学工業 | 3,110 | 83.7 |
ミサワホーム | 2,769 | 75.4 |
ヤマダ・エス・バイ・エルホーム | 2,813 | 72.4 |
表:住宅メーカーごとの1棟単価、坪単価
(住宅産業新聞2018年6月21日号より)
木造在来工法の高級住宅として有名な住友林業は97.9万円/坪と最も坪単価が高い実績でした。
表中最も坪単価が安いヤマダ・エスバイエルホームは72.4万円/坪でした。
第1章でふれた住宅着工統計、フラット35利用者調査にはこれら大手ハウスメーカーで建てた戸建て住宅が含まれていますから、坪単価の平均値を引き上げていることは間違いありません。
■第3章 工務店が割安な2つの理由
一方、地域の工務店で建てる戸建て住宅の坪単価と、大手ハウスメーカーの坪単価には決して少なくない価格の開きがあります。
なぜ工務店は割安なのでしょうか。
1.規格化された標準仕様にしばられることがない
大手ハウスメーカーで建てる家はいくつかのグレード設定をしていますが、そのグレードの中で規格(仕様)がほぼ決まっており、仕様変更などの柔軟な対応がしづらいです。
それに対し、全体予算を見つめながらお金をかけるところと少々仕様を落とすところのメリハリをつけることで希望に答えながら予算内に収めることができるのが地域の工務店の特徴です。
2.余分な経費がかからない
大手ハウスメーカーは全国規模のテレビコマーシャルや雑誌への広告掲載、住宅展示場へのモデルハウス出店など、広告宣伝費用に莫大な予算を割いています。
その他商品開発や企画など様々な経費がかかり、その分建設コストにオンされています。
誰もが名前を知っている有名なメーカーであることの安心感は絶大で、それこそが大手ハウスメーカーの最も優位な点でしょう。しかしその分建設費が高くなりがちというデメリットがあると言えます。
一方工務店は地域に根づいた営業展開が主なため、広告宣伝費にあまり多くのお金をかけません。
ごく一部の工務店を除いては住宅展示場にモデルハウスを出店することもありません。こうしたコストが抑えられているため建設工事費を割安に抑えることが可能なのです。
■第4章 坪単価とは「本体工事費÷床面積」
ところで、ここで「坪単価」の定義と算出方法についてあらためて解説します。
坪単価とは
建物本体工事費 ÷ 床面積 = 坪単価
(1坪 ≒3.3㎡として計算)
として算出します。端的にいうと「単位面積あたりの工事費」です。
例えば建物本体工事費 2,500万円、床面積 50坪(≒165.3㎡)の場合、
2,500万円 ÷ 50坪 = 50万円/坪
となり、「坪単価50万円」ということになります。
坪単価という数字がよく使われる理由として、注文住宅の建設工事費、グレード(品質)の比較のしやすさがあります。
建物本体工事費の総額を比較したのではその建物の大きさ(広さ)によって大きく変わってしまうため比較しにくいためです。
そこで「単価」を算出して比較すればわかりやすく割高割安感や仕様の比較ができるだろうというのが坪単価の本来の意図するものです。
例えが少し乱暴ですが、お肉屋さんで牛肉を買うときに
「さすが国産黒毛和牛!100gあたり600円!」
「これは外国産牛だから 100gあたり200円」
といった具合にグラム単価で肉の良し悪し、グレードを比較しますね?
また、「あちらの肉屋は同じ国産黒毛和牛が100gあたり550円だった!」と他店と比較したりもします。
それと同じことを住宅建築費用でもやっているわけです。
しかし、このように坪単価を基準にして高い、安いと議論するのは実はとても注意が必要です。
いつのまにか坪単価という金額がひとり歩きをしていないか、冷静に考える必要があるのです。
■第5章 坪単価の算出方法は会社によって違う!?
みなさんは「坪単価の算出方法は決まった方法があって、どのハウスメーカー・工務店も同じ方法で算出しているのだろう」と信じている方も多いのではないでしょうか。
ところが驚くべきことに実はそうではないのです。
「工事費÷面積」という単純な計算式で算出されるこの数値、実際は各ハウスメーカー、工務店によって算出方法が違います。
正確には算出方法が違うというより、「工事費」「面積」のとらえ方が異なる、というほうがよいかもしれません。
5-1 工事費に含まれるもの
わり算の分子となる「建築本体工事費」ですが、どこまで何を工事費に含めるかによって大きく変わってきます。
代表的な例はエアコン(空調機)などの設備機器の費用です。エアコン設置費用は工事費に含まれていて当然じゃないのか、と考える方が多いかもしれませんが、「エアコンは別途工事で本体工事費に含んでいない」とするケースも多くあり、各社食い違いがあります。
他にも造りつけ家具の費用、インテリア装飾品、照明器具などを坪単価算出の工事費に含むのか否か、特に法律や業界で定めた決まりはなくハウスメーカー、工務店各社で何まで工事費に含めるかの基準はバラバラです。
5-2面積に含まれるもの
さらに厄介なのは割り算の分母となる「面積」の算出方法です。これも実状を知らない方は驚かれるでしょうが、面積の求め方も実は各社バラバラなのです。
一般的に坪単価算出に使う面積は「延床面積(のべゆかめんせき)」を使うのがあたりまえなのでは、と思う方が多いかもしれません。
5-3延床面積
延床面積は建築基準法によって算出方法が明確に規定されており基本的に日本全国どこで建設しても同じ設計図であれば同じ延床面積となります。(注:自治体の条例などで違いが生じる場合もあります)
ところが、建築基準法の規定には延床面積に「面積参入しない」部屋や部位があります。
例えばロフト(屋根裏収納)部分や地下室、屋内ガレージ、ベランダバルコニーなどの部分です。(注:建築基準法の規定により延床面積に参入する場合もあります)
これらの部分は原則として建築基準法上の延床面積には含まれないのですが、作り手側にとっては手間と労力は同じくかかる面積部分になります。
そこで出てくるのが「施工床面積(せこうゆかめんせき)」という考え方です。
5-4施工床面積
建築基準法上の延床面積としては面積参入しない部分も、実際に施工する床には違いないから面積としてカウントしようという考え方です。
「施工床面積」とは、もともとは作り手が実際の施工ボリュームを把握するために算出する面積数値で、一般にはあまり浸透していない概念だと思います。
これが皆さんが混乱されるモトです。
広告で見たり、工務店の営業担当者から聞いたりする坪単価の計算方法が、あるハウスメーカーでは建築基準法上の「延床面積」で計算され、他のハウスメーカーでは「施工床面積」で計算している、というように、「ものさし」に違いがあるのです。
5-5ものさしがバラバラ
坪単価の算出に「施工床面積」を採用することで、床となる部分の面積をフルにカウントし、一方、工事費は最低限の本体工事費で多くのオプション工事は別途費用、という条件で算出した坪単価はとても安くみえることはもうおわかりですね。
坪単価は単純な「工事費÷面積」の計算式ですが、工事費のものさしもバラバラ、面積のものさしもバラバラ、結果、算出された坪単価を単純に比較してしまうと大きな違いが生ずることになることがおわかりいただけるでしょうか。
5-6 水回り密度
坪単価にはもう一つ落とし穴があります。それは「水回り密度(私が命名)」です。
一般的に住宅の工事費の中でも比較的費用がかさむ部分に風呂、トイレ、キッチンなどの水回りがあります。
これらの部分は家の大小にかかわらずどの家にも必ずある部分です。
例えば、Aさんの家は延床面積50坪、Bさんの家は30坪、それぞれ同じ数、仕様の風呂、トイレ、キッチンをつくるとします。
水回り部分については建物全体面積が大きかろうと小さかろうとほとんど工事費は変わりません。
わかりやすくるすために水回り部分だけにかかる工事費を仮に600万円としましょう。
水回り部分だけの工事費を全体の床面積で割った坪単価を算出するとAさんの家は12万円/坪、Bさんの家は20万円/坪となり、Bさんの家のほうが坪単価としては高くなります。
しかし、全体の面積が小さい分、建設費の総額はBさんの家のほうが安いはずです。
他にも注意するべき部位はいくつかあって、屋根面積などもそうです。
屋根の水平投影面積(上空から見下げた見かけの面積)が小さな家のほうが屋根工事費を坪単価にすると小さい家のほうが割安になったりします。
水回り密度の外にもこうしたさまざまな要因で坪単価は割高にも割安にもなりえるのです。
■第6章 坪単価はあくまで「めやす」
いかがでしょう?「坪単価」とひとくちにいっても、算出する基準はバラバラ、条件によっても変動する、これは単純に比較できないということがお分かりいただけたでしょうか?
「こちらの家は坪単価45万円/坪、あちらは60万円/坪」という数字だけではどちらが仕様がよいとか、どちらが割安とか、単純には比較できないのです。
(同じハウスメーカーでグレード差を比較するなら良いですが)
ハウスメーカー、工務店は実はこうした事情がわかっています。ですからホームページや広告などで「坪単価○万円でできます」などと軽々しく言うと顧客の誤解を招くおそれがあり、のちのトラブルの元となるのであまり明言したくないのが本音だと思います。
一部のハウスメーカーには「坪30万円の家」などと大々的に宣伝したりする会社もあるようですが、詳しく話を聞いてみればいろいろなものがオプション(別途費用がかかる工事)になっていたり、他のメーカーの単価算出方法で計算すると実は坪70万円くらいに相当したりする、といったことが実際におこりえます。
『坪単価の相場が知りたい』と思いインターネットで検索しても、ズバリ いくら!と明確にうたっているものがあまりないのはこうした事情なのです。
それがわかったうえでいろいろなメーカー、工務店のホームページをあらためて見てみると「A様邸 ○万円」「B様邸 △万円」といった表記が多いことに気づくと思います。
それぞれの条件によって違うのですよ、ということを暗に示しているのです。世の中には一つとして全く同じ条件で建てられる建物というのはないのです。
まとめ
地域の工務店で建てる注文住宅(一戸建て)の建設坪単価は約50万円/坪でした。
一方、大手ハウスメーカーの坪単価は75~90万円/坪くらいが公表資料から読み取れました。
大手ハウスメーカーに比べて地域の工務店は広告宣伝費や研究開発費などのコスト負担が大手に比べ少ないため建設費用を割安にできるのです。
ただし、「坪単価」で建設費を比べるのはあくまで目安の数字としてするべきで、最も大事なのはあなたが家を建てるための予算で、いくらまでならお金をかけられるのか、という「総工事費」です。
坪単価の数字にあまり振り回されることなく、しっかりご自身でモデルハウスや施工事例を見て、工務店の担当者の話を詳しく聞き、納得できるまで相談される姿勢を大切にしてください。
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