
1.平屋の魅力
平屋とは、「地上1階建の建築物」のことです。
戸建て住宅というと「2階建て」や「3階建て」を思い浮かべるのが一般的で、「地上1階建て」である平屋の住宅を希望することはむしろ少数派の印象がありました。
ところが、平屋ならではの合理性や、個性的な住まいを実現できることなどが再評価され、近年はその人気が高まっています。
まずは、平屋の魅力についてみていきましょう。
1−1 多彩で個性的な生活スタイルの実現が可能
空間構成や意匠デザインにおいて、平屋の住宅は2階建てや3階建てよりも設計の自由度が高いことが特徴のひとつです。
この特徴を活かすことで、多彩な空間演出の可能性が広がり、個性的な生活スタイルの実現が可能となります。
例えば、平屋の住宅というと田舎っぽい古風な家を思い浮かべる方も多いでしょう。
これを「古臭い」と否定的に捉えるのではなく、「レトロ趣味」といった感覚で好ましいものとして肯定的に捉える方も増えています。
こうした方に向けて、伝統的な家屋の落ち着いた雰囲気を大事にしたまま、現代的な生活スタイルや高い機能性を組み込んだ住まいを実現することも可能です。
また一方では、従来の平屋のイメージにとらわれず、現代的でスタイリッシュな意匠と空間構成を備えた平屋住宅の提案も数多くされており、若者や子育て世代などの興味が高まっています。
1−2 マンションと戸建て、双方の利点を併せ持つ暮らし
平屋の住宅は、2階建てや3階建てと同様に「戸建て住宅」の魅力や長所を持っているとともに、「ワンフロア形式の住戸」の利点も備えています。
「ワンフロア形式の住戸」として最も想像しやすいのは一般的なマンションの住戸ですが、平屋は「戸建て」と「マンション」の双方の良さを併せ持った住まいとも言えるでしょう。
もう少し具体的に説明してみましょう。
当然のことですが、平屋であっても2階建や3階建と同様に「戸建て住宅」には変わりませんから、専用の庭や高い独立性など戸建て住宅ならではの魅力や長所を備えています。
一方で、平屋の住宅は「ワンフロア形式の住戸」という点でごく一般的なマンション住戸と同じです。コンパクトで効率的、さらに使い勝手も良いという特徴を持つことができます。
つまり、平屋の住宅は、マンションの住戸が持つ空間効率の良さや機能性の高さといった利点と、戸建て住宅の魅力と、その双方を併せ持つ暮らしの実現が可能と言えます。
1−3 ワンフロアの暮らしは高齢者世帯にも子育て世帯にも安心
「階段の上がり下り」のない住戸内は、高齢者にも優しい「段差のない暮らし」を実現するのに好都合です。
子育て世代にとっては、「子供が階段から落ちる」という事故の心配がない上に、子供が常に親と同じ階に居ることになるので「親の目が届きやすい」というメリットが得られます。
ただし、住戸内の段差がないからといって、室内の床の高さが外部の地面と同じということではありません。玄関や掃き出し窓など、外部と出入りする部分に生じる段差には十分に注意して設計してください。
1−4 短くコンパクトな家事動線
平屋の住宅は、生活動線や家事動線を短くコンパクトにまとめることが可能です。
例えば、「掃除機を2階に運んでお掃除」「1階の水回りで洗濯して、2階のバルコニーに干す」といった2階建て住宅にありがちな家事動線がなくなり、全てが同一階で完結する動線となります。
細かなことですが、段差のないワンフロアの住宅であれば、昨今普及している「掃除ロボット」も住宅全体を動き回って大活躍してくれることでしょう。
1−5 階段スペースが不要となってプラスひと部屋の余裕
ワンフロア形式であれば階段を設ける必要はありませんから、階段を設けるためのスペースを他の用途に有効活用することが可能となります。
計画の工夫によっては、2階建と同じ床面積でありながら、階段スペースを転じて書斎や納戸など「+1部屋」が実現できるかもしれません。
1−6 豊かなコミュニケーションを育む暮らし
平屋の住宅では、家族間のコミュニケーションが豊かな暮らしを育みやすいという利点が期待できます。
というのも、当たり前のことですが平屋ではすべての部屋が同一階に並びます。1階と2階に階段で隔てられることがないため、住宅全体の一体感がはるかに増すことになります。
一方で、空間の利用効率を上げるために、廊下の少ない平面計画を心がけることが普通に行われます。つまり、廊下に代わってリビングルームを核として各部屋を繋げる平面計画とすることが多いのです。
結果として、1階と2階に空間が分断されるということが起こりえない上に、リビングルームで家族が顔を合わせ、一緒に過ごす時間が長くなることが期待できる住まいとなるのです。
1−7 耐震性とデザイン性の両立が容易
平屋の場合、耐震性を確保しつつ、2階や3階建ての住宅に比べて自由度の高い設計を実現することが可能です。
2階・3階建ての住宅というのは、上階を支えるため耐震性の構造が非常に重要になってきます。そのため耐震性の観点からデザイン・設計の面で実現できないことがある事もしばしばです。
その点、平屋は支えるべき上階自体がないので自由度の高い設計と耐震性の高い構造を両立できる訳です。
1−8 容易な建物メンテナンス
平屋は、2階建てなどに比べて建物メンテナンスの負担が軽くなる可能性があります。
戸建て住宅で快適に暮らすためには、屋根、外壁、窓など外部開口部、内装、住宅設備、庭(外構)など部位に応じて望ましい期間で定期的にメンテナンスすることが重要です。
平屋は2階建てに比べて単純な構造・構成であることが多いので、メンテナンス項目を少なく済ませられることがあるのです。
また、足場が必要となる屋根や外壁などのメンテナンス工事においては、2階建に比べて建物高さが低いことが多いために、より低い足場で済ませることが可能となり工事費用を抑えることが可能です。
2.平屋のデメリット
2−1 法規制の上で許される床面積のすべてを使い切ることができない
戸建て住宅の敷地は法規制によって建てられる床面積の限度が定められていますが、2階建てや3階建てではその限度いっぱいの床面積を実現出来るのに対して、平屋では限度いっぱいまで使い切ることができません。
結果として、同じ敷地であれば、平屋は2階建てや3階建てに比べて小さな床面積しか実現できないことになります。
あるいは逆に、同じ床面積の住宅を実現しようとすると、平屋は2階建てや3階建てに比べてより広い敷地を用意することが必要となります。
<床面積の広さだけではない生活の豊かさを見出す>
そこで大切になるのが、「2階建と同様の床面積を実現する」という点を改め「より小さな住宅に密度高く住まう」という逆転の発想です。
平屋は2階建とは異なる空間構成を持つものですから、その利点を活かし2階建とは異なる暮らし方を考えることで、小さな延床面積でありながら大きな満足を得られる住まいの実現も不可能ではありません。
法規制上で実現可能な床面積のすべてを使うことにならないという点では敷地の持つ可能性を減じていると感じるかもしれませんが、それが必ずしも豊かな暮らしを実現する可能性を減らしているわけではないということに目を向けることが、平屋の魅力を活かすことにつながります。
2−2 十分な日照や通風をするために配慮が必要
居室の日照や通風が十分であることは快適な住み心地の上で欠かせない要素ですが、平屋の場合はそれらの確保について2階建に比べてより一層の注意を払った計画が必要となります。
なぜなら、敷地の周りには2階建もしくはそれ以上の高さの建物が建っているのが一般的で、それらの建物に囲まれて陰となることを考えると、2階の居室に比べて1階の居室は日照や通風の条件が不利となるからです。
2−3 近隣との間のプライバシーの確保に注意が必要
また、近隣との間で相互のプライバシーを守ることについても、2階建以上に慎重な計画検討が必要となります。
なぜなら、平屋では全室が地面に接する1階に配置され隣地や道路と同じ視線の高さで暮らすことになり、全室で庭との関係を楽しめるというメリットの一方で、前面道路から覗かれたり、隣家の2階から見下ろされる可能性を否めないからです。
2−4 コストアップ
平屋の工事費は、2階建に比べると坪単価的には高くなる傾向があります。
なぜなら、仮に全く同じ延床面積の住戸を建てるとして2階建と1階建(平屋)を比較すると、室内や外壁については両者の差は大きくはないものの、基礎や屋根の面積について平屋は2階建に比べて倍増することになるからです。
住宅建築工事を構成する様々な工種の中でも基礎や屋根は単価の高い工種ですから、その量が増えることの影響は大きく、基礎や屋根が増える分だけコストアップしてしまうというわけです。
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3−1 人の動線・モノの動線を「シンプル」で「短く」
機能的で快適な住まいを実現する上では合理的な動線計画とすることが重要ですが、そもそも上下階を移動する動線が存在しないというメリットを持つ平屋においては、そのメリットを最大限に活かせるようシンプルで短い動線計画を実現することが肝要です。
人が動くこととモノを運ぶことの双方の動線を考え、いずれも短くシンプルとなるような計画としましょう。
代表的な家事動線である台所周りの動線と洗濯の動線についてみてみましょう。
食材などを購入し運び入れ収納するまでの動線、収納場所から出して台所までの動線、台所で調理して食卓に出すまでの動線のそれぞれを具体的に検討し、短くシンプルなものとすること。
台所に隣接させて、食品収納庫や冷蔵庫、食器棚などを収めるパントリーを設けることなどが考えられます。
洗濯物が発生するのは衣服を着替える個室や洗面脱衣室ですが、その場所から洗う場所(洗濯機置き場)までの動線、洗濯物を洗って干すまでの動線、干したものを取り込み、アイロン掛けやたたむ作業をしてクローゼットに収納するまでの動線のそれぞれを具体的に検討し、短くシンプルなものとすること。
洗面脱衣室にアイロン掛けができるようなカウンターを設けて家事室を兼用し、さらに隣接する位置にウォークインクローゼットを設ける、といった工夫をすることで極めて合理的な洗濯動線にすることが可能です、
3−2 収納スペースの確保
十分な収納スペースを確保することは、平屋に限らず一般的に住宅計画において重要な点ですが、平屋の場合は他に増して十分に配慮すべきことと言えます。
なぜなら、前述したように2階建てや3階建てに比べて平屋の住宅は実現可能な延床面積に制約がありますから、LDKや寝室、水回りなど生活に必須な空間のことばかりを考えていると、収納スペースが思っていた以上に小さくなってしまう可能性があるのです。
小屋裏(屋根裏)や床下の空間を活用して収納庫を設ける、天井を高くしてロフトを設けるなど立体的な工夫によって収納スペースを増やすことも検討してみましょう。
もちろん、前項で書いた合理的な動線計画は、空間を効率良く活用することにも有効ですから、収納スペースを確保する上でも極めて効果的となります。
3−3 プライバシーとコミュニケーションのバランスに注意する
設計の自由度が高く開放的な空間構成を実現できることが平屋の魅力のひとつですが、家族間の豊かなコミュニケーションのために開放的な空間を求め過ぎると、個人のプライバシー確保が不十分になってしまう恐れもあります。
家族それぞれの個人的な空間(寝室など)、家族みんなで共用する空間(風呂・洗面、便所など)、家族相互が交流する空間(居間や食事室など)といった性格の異なる3つの空間が不適切に混在してしまうことがないように、部屋の配置や部屋と部屋のつながりを検討し望ましい空間構成を実現することが大切です。
また、隣地や道路との関係においても同様のことが言えます。
全ての部屋が1階にあるので、外に向かって開放すれば庭を楽しめる一方で、隣地や道路に向かってむやみに開放してしまうとプライバシーが守れない住まいになってしまいます。
敷地の周辺環境を詳細に踏まえた上で、窓の位置や大きさ、視線の方向などを適切にコントロールすることが重要です。
4.おしゃれな平屋ライフのカギ
4−1 大空間を楽しむ
なんと言っても、設計の自由度が高いことが平屋の最大の特徴ですから、この特徴を活かして壁が少なく開放的な空間を楽しむことが要です。
平面的には、隣接する部屋を連続的で一体的な空間とすること、庭をはじめ外部に向かって大きな開口部を設けて採光や通風を十分にするだけでなく外部空間と内部空間を一体的に楽しめる構成とすることなどが挙げられます。
立体的には、屋根形状に沿った勾配天井を採用するなど、天井の高さや形状の工夫で印象の異なる空間を実現するすことが挙げられます。
また、単純に大空間として1ルーム形式の住まいとすることも個性的で魅力ある方法ですが、平面形状や建具(特に引き込める引き戸)の工夫を加えて、状況に合わせて分割したり一体化したりできるようにすると、さらに変化に富んだドラマチックな住まいが実現します。
4−2 庭を楽しむ
開放的で一体的な内部空間を楽しむ魅力とともに、外部に向かって開放的な建物とすることも平屋の大きな魅力です。
庭と部屋とを大きな開口部で結び、庭を生活の中に積極的に取り込むことは、平屋らしさを活かすポイントのひとつです。
具体的には、LDKから大きな開口部で連続する木製デッキを庭の中に設けて、「半屋外のリビング」として利用するといったことが考えられます。
隣家や道路など周辺とのプライバシー確保の観点から、中庭を囲む平面計画として、中庭に向かっては大きく開き、敷地外に向かっては閉じることで庭への開放感と近隣とのプライバシーの確保の両立を図ることも良いアイデアです。
4−3 平屋の外観を楽しむ
戸建て住宅なのですから「我が家ならではの外観」を実現することも魅力のひとつでしょう。
設計の自由度が高いという平屋の特徴は、外観の印象もより自由に形作ることができるということでもあります。
住宅の外観において外装材の素材選びや色決めが重要ですが、それ以上に重要で外観の印象を大きく左右するものは、建物全体のフォルム(シルエット)とプロポーションです。
そして、フォルムを大きく左右するのは屋根の形状です。代表的な屋根形状は、平たい陸屋根、片流れ屋根、切妻屋根ですが、同じ平面計画でも屋根形状を変えると全く外観の印象が変わります。
屋根の勾配をどの程度とするかと併せて、好みの形状をあれこれ検討するのは夢の広がる楽しい時間のはずです。
また、プロポーションを大きく左右するのは、屋根の高さです。平屋の場合、高さが低く幅広いという2階建とは根本的に異なるプロポーションを持ちます。
いかにも平屋らしく低く抑えたプロポーションとして水平方向の広がりの感じられる外観とするか、一部の屋根を高くして象徴性の感じられる強い印象の外観とするか。
同じ平面計画、同じ屋根形状であっても、屋根の高さを少し変えるだけで驚くほど外観の印象が変わります。
さらに、屋根の高さや形状は、その下に内包する部屋の天井高さに影響を与えます。内部空間の居心地と外観の印象の双方から検討して、長く愛着の持てる自慢のマイホームを実現してください。
5 平屋のコストダウンのポイント
平屋のデメリットとして2−4項でコストアップのことを指摘しました。
2階建に比べて基礎と屋根の数量が増えることがコストアップの主要因なのですが、夢の平屋を現実のものとするために役立つ情報として、この項ではコストダウンのポイントを指摘します。
5−1 コンパクトな住まいとすることを徹底する
コストアップの主要因は、基礎と屋根の数量が増えることですから、その増加分が小さいほどコストアップの程度も小さいことになります。
基礎や屋根がなるべく少ない計画とすれば良いわけですが、それはすなわち「より小さくコンパクトな建物とする」ということです。
つまりは、「小さい家にすれば安くなる」ということで、改めて書くまでもない「当たり前」のことです。
ではありますが、平屋の住宅においてはこの「当たり前」を再確認して徹底的に突き詰めることが肝要です。
小さく狭い住宅を、如何に豊かに住みこなすか。その工夫をあれこれ楽しむことこそが「平屋住まいの真骨頂」と心得てください。
もちろん、如何に「小さな家」を極めたとしても自ずと限界はあるもので、限界以上に小さくして家族全員の暮らしを収めることができなくなってしまっては本末転倒です。
ちなみに、住宅本体を小さくすると、それに応じて庭など外構部分の面積が増すことになります。
この増加する外構部分を如何に有効に活かすかが、平屋計画の成功の鍵を握っていると言っても過言ではないでしょう。言い換えると、外部空間を日常的に活用する生活スタイルを工夫する、ということです。
5−2 過剰な高機能や過度に高級グレードの素材や機器を排除する
建物全体の大きさを抑える工夫とともに有効な減額方法は、採用する素材や機器を安価なものに抑えるという方法です。
まず、設備機器の仕様を今一度見直して、過剰な高機能が備わったものとなっていないか確認してください。
風呂に浸かりながら見るテレビや、ミストサウナ、ジャグジーは本当に必要ですか?
自動で上下する吊り戸棚は必要ですか?いたずらに収納容量を小さくしてるだけだとは思えませんか?
蓋が勝手に開いたり、自動で流してくれる便器は、本当に必要ですか?
また、仕上げ材料についても、過度に高級グレードの素材を採用していないか今一度確認してください。
こだわりのある箇所にこだわりのある素材を用いることは「夢の実現」として大切なことですが、さほどこだわりがなく重要でもない箇所については必要最低限の機能に止めて徹底的に安価を極めるべきです。
コストをかける箇所とコストを削る箇所をしっかり見定めて、メリハリのあるコスト配分とすることが極めて大事です。
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関連記事まとめ
平屋について、長所や短所、魅力を活かす設計やコストダウンのポイントなど、その全体像の要点を網羅的に説明してきました。
この記事の内容を把握しておけば、より詳しく専門的な情報を理解することが容易となるはずです。
平屋の実現に向けた具体的な検討に少しでも役立てば幸いです。
▼次にぜひお読みいただきたい記事です!▼
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